初期段階からのセキュリティ: AI ベースの開発における新たな必須条件
Daniel Berman
ソフトウェア開発のあり方は根本的に変わりました。AI コードアシスタントはもはや目新しい技術ではなく、開発者の生産性とイノベーションを飛躍的に高める新たな標準となっています。これは未来のトレンドではなく、まさに「今」起きている現実です。現在、開発チームのおよそ半数が生成 AI ツールを活用しており、エンジニアリングリーダーの約 70% がエンジニアリング作業時間の短縮を報告しています。AI 駆動型開発の時代は、すでに到来しているのです。
しかし、この作業時間の短縮には見えない代償があります。それは、従来のツールでは対応できない、2 つの側面からなるセキュリティ課題です。第一の側面は、AI が生成する安全ではないコードがすさまじい速度で拡散するという新たな脅威です。調査によると、AI が生成したコードのほぼ半数が安全でないことが明らかになっており、これまでにないスピードで巨大な新しい攻撃対象領域が生み出されています。このリスクは、「バイブコーディング」という新しいパラダイム、従来とは異なる開発者層の増加、そして AI モデルがしばしば欠陥のある公開データで学習しているという現実によって、さらに増強されています。第二の側面として、この新たな課題に拍車をかけているのが、人間が書いたコードに存在する膨大な既存のセキュリティバックログです。これが今もなおチームの足かせとなり、開発スピードを遅らせています。
従来のセキュリティツールは、これら 2 つの課題の両面で苦戦しています。AI を活用した新しい開発ワークフローにはスピードが追いつかず、過去からのセキュリティ負債を効率的に解消するためのインテリジェンス機能も不足しています。その結果、組織は「イノベーションを犠牲にして安全を取る」か、「受け入れがたいリスクを許容する」かという、二者択一の板挟み状態に陥っているのです。
なぜ従来の「シフトレフト」モデルではもはや不十分なのか
長年にわたり、アプリケーションセキュリティの課題に対する解決策として「シフトレフト」、つまり開発ライフサイクルのより早い段階で脆弱性を発見するというアプローチが取られてきました。この原則自体は今でも重要ではあるものの、従来の実践手法 (たとえば IDE 内、プルリクエスト時、あるいは CI/CD パイプラインで脆弱性を検出する手法) では、AI によって加速する開発スピードにはもはや追いつけません。
従来型のスキャンが実行される頃には、開発者はすでに AI の提案を何十件も受け入れてしまっている可能性があります。その結果、処置作業は開発を妨げ、コストがかさんでしまいます。これは、スピードを重視して AI を活用してきた開発者にとっては受け入れがたい摩擦です。また、従来型のツールは設計上「受動的」であり、コードが書かれた後で問題を発見する仕組みです。つまり、AI に対して最初から安全なコードを生成するよう導くための、先を見据えた教育機能が欠けています。

このことが、新たなパラダイムへの進化を避けて通れない重要課題として浮き彫りにしています。
ソリューション:「初期段階からのセキュリティ」という新たなパラダイム
解決の道は、イノベーションのスピードを落とすことではありません。むしろ、セキュリティを AI ネイティブな開発ワークフローの中に直接組み込むことが鍵を握ります。これが「初期段階からのセキュリティ」という原則です。これは、従来の「後追い型スキャン」を超え、AI コーディングエージェントを最初のプロンプトから安全なコード生成へと導く、先を見据えたアプローチです。つまり、セキュリティを「見えないが常に働いている、自動作成プロセスの一部」にするという考え方です。
Snyk Studio は、この新しい現実のために設計された唯一の開発者ファーストのセキュリティ製品です。私たちは、開発セキュリティにおける 2 つの課題の両面に対して、1 つの統合ソリューションで取り組みます。
AI が生成するコードという新たな領域に対処するため、Snyk Studio は「初期段階からのセキュリティ」を実現します。それは、当社の業界をリードするセキュリティエンジンを開発者の AI アシスタントに直接組み込むことで達成されます。Snyk Studio は、AI が書いたコードを「後からスキャンする」だけではありません。開発者が最初のプロンプトを入力した瞬間から、コード生成のエージェントフロー内にセキュリティスキャンと処置を組み込み、コードの安全性を確保します。

過去から蓄積されたセキュリティ負債に対処するために、Snyk Studio は「インテリジェント処置」を提供します。これは、AI の力を活用して、これまで想像もできなかった規模とスピードでバックログを解消し、開発者が未来の開発に集中できる環境を実現するソリューションです。
AI ベースの開発を実践的に保護する
自社コードにおける問題の防止
たとえば、あるヘルスケアテクノロジー企業の開発者が、患者記録を閲覧するための機能を開発しているとします。その開発者は AI コードアシスタントに次のようなプロンプトを入力します。「患者 ID を使ってデータベースから患者記録を取得する API エンドポイントを作成して」
AI は、純粋に機能面だけに焦点を当て、URL から recordId を受け取り、対応する記録を取得するクリーンで効率的な関数を即座に生成します。しかし、この最初のバージョンのコードには重大な IDOR (Insecure Direct Object Reference: 不正な直接オブジェクト参照) 脆弱性が含まれています。なぜなら、そのコードは、ログイン中のユーザーがその特定の記録を閲覧する権限を持っているかどうかを確認していないからです。
従来型のセキュリティスキャナーであれば、この問題を検出できるはずです。理想的には IDE 内やプルリクエスト時に検知されるでしょう。しかし、そのためには開発者が手動で SAST スキャンを実行する必要があり、これは多くの場合、時間がかかり作業の流れを妨げるという問題を抱えています。
ところが、Snyk Studio の「初期段階からのセキュリティ」アプローチでは、プロセスがまったく異なります。AI コードアシスタントには、あらかじめ次のようなルールがハードコードされています。「新しいコードが生成されるたびに、即座に Snyk Code スキャンを実行する。問題が見つかった場合は、その結果を基に修正を試み、再スキャンして修正を検証する」
このルールに従い、AI アシスタントはコードの原案を生成した時点で処理を終えることはありません。生成直後、その関数に対して Snyk Code が直ちに実行されます。Snyk のエンジンは即座に IDOR 脆弱性を検出し、そのコンテキストを提供します。この結果を基に、AI アシスタントは自律的に必要な修正コードを生成し、レコードの ownerId が認証済みセッションの userId と一致することを検証する重要なロジックを追加します。その後、AI アシスタントは再スキャンを実行し、脆弱性が解消されたことを Snyk が確認します。
開発者は、最初のプロンプトだけで、最終的に安全な検証済みのコードを受け取ります。これこそが、プロセス主導のガードレールがもたらす機能です。セキュリティが作成プロセスそのものに自動的に組み込まれる「見えない要素」となるのです。
オープンソースにおける脆弱性の回避
AI アシスタントが頻繁に提案するオープンソース依存関係に対しては、先を見据えた予防の原則がさらに重要になります。ここにおけるリスクは、古いパッケージバージョンに偶発的に含まれる脆弱性だけではありません。最近の大規模なソフトウェアサプライチェーン攻撃が示すように、よく使われるパッケージに悪性コードが意図的に埋め込まれるという新たな脅威が拡大しています。
AI アシスタントは、大量の公開データを使用して学習しているため、こうしてセキュリティ侵害された依存関係を無意識のうちに提案してしまい、コードベースにアクティブな脅威が直接取り入れられる可能性があります。
たとえば、別の開発者が AI アシスタントに次のように指示したとします。「Express を使ってチェックアウト処理を行う新しい API エンドポイントを作成して」
AI は、機能的には完全なエンドポイントを生成するかもしれませんが、その中で qs@6.5.1 というオープンソースパッケージをユーザー入力の解析に使用する可能性があります。しかし、このバージョンの qs ライブラリには、アプリケーションの動作を改ざんしたり、サーバーをクラッシュさせる可能性のある、重大なプロトタイプ汚染脆弱性が存在します。
従来型のセキュリティスキャナーでも、この脆弱性を IDE 内や PR チェック時に検出できるかもしれませんが、それでは結局、開発者が作業を中断し、コンテキストスイッチを実行して、安全な代替ソリューションを探す必要がありました。
「初期段階からのセキュリティ」では、ワークフローが根本的に異なります。セキュリティチームは Snyk を使って、「新たに導入または変更された依存関係のうち、脆弱性が存在するバージョンを検出して修正せよ」というシンプルなルールを設定します。このルールが有効な状態で、開発者が同じプロンプトを入力すると、AI は Snyk のセキュリティインテリジェンスを基に、開発者に提供される最終的なコードにおいて安全でないパッケージバージョンを自動的に回避します。生成される API エンドポイントは機能的には同一ですが、qs ライブラリの最新の修正版が使用されるようになります。
アラートも、フリクションも、コンテキストスイッチも不要です。これこそが、先を見据えた予防機能です。セキュリティは「開発を妨げる門番」ではなく、見えない形で開発を支える力になるのです。
バックログの解消
「初期段階からのセキュリティ」アプローチは、新たな脆弱性の発生を防ぐ上で非常に重要ですが、多くの組織がすでに抱えている膨大なセキュリティバックログについては、どう対処すればよいのでしょうか?
生成 AI のためのデータファクトリーである Labelbox では、セキュリティエンジニアの Aaron Bacchi (アーロン・バッキ) 氏が、2 年分にわたる重大な SAST 脆弱性のバックログに直面していました。開発チームは新機能のリリースに集中しており、このバックログは長期的なリスク要因であるにもかかわらず、対応する余裕がありませんでした。
そこでアーロンさんは、AI コードアシスタント Cursor と Snyk Studio を組み合わせ、AI ベースの処置ワークフローを構築しました。彼は Snyk のセキュリティコンテキストを基に、AI アシスタントを活用してバックログ内の脆弱性を検証およびテストし、修正版コードを生成しました。
その結果はまさに革命的でした。わずか数週間で、2 年分の重大な SAST 脆弱性バックログをすべて解消したのです。これにより、膨大なリスクを排除できただけでなく、アーロンさん自身がより戦略的なセキュリティイニシアチブに集中できるようになりました。しかも、コアエンジニアリングチームの作業時間を一切奪うことなく実現されたのです。アーロンさんは次のように語りました。「まさに変革でした。初めて、リスクをゼロにできるという確信を持てました」
AI リスクから安全なイノベーションへ
AI ベースの開発の時代はすでに到来しています。この新しい時代で成功するためには、場当たり的なセキュリティ対策から脱却し、拡張と管理が可能な、初期設定で安全なプログラムへと進化する必要があります。従来の事後対応型スキャンモデルでは、AI のスピードとスケールにはもはや対応できません。
「初期段階からのセキュリティ」アプローチを採用することで、先を見据えて AI が生成する新たな脆弱性を防止できます。さらにインテリジェント処置を活用すれば、過去に蓄積したセキュリティ負債を効率的に解消できます。Snyk Studio は、この両方を実現する完全な開発者ファーストソリューションを提供します。これにより、ソフトウェア開発の未来を自信を持って受け入れ、AI ベースの開発スピードの可能性を安全な現実に変えることができます。
数回クリックするだけで、「初期段階からのセキュリティ」を始められます。